アークナイツ
ブレイズ、Ace+α
「これで終わりか?」
念入りに周囲を見回すAceの口元が白く濁る。しかしそれはすぐに吹き荒ぶ風によって容赦なく流されて消えてしまった。
ウルサスとリターニアの国境近く。国境での武力の行使は隣国への牽制とみられる可能性があり、治安維持の行き届かないエアスポットとなっていた。その隙をついて好き放題やっている盗賊団の排除をロドスが請け負ったのだ。
Aceに近寄ってきたAce小隊の一人、ビーンは、耳にあてたイヤホンを指で押さえ、数秒沈黙してから答えた。
「そのようですね」
ビーンの言葉を受けたAceは、慎重に頷くと、ほんのわずかに体の緊張を解いた。
「それにしても寒いな!」
「本当ですよ!」
二人で顔を見合わせ、二の腕を手のひらでさすりながら、止まない風に負けない声量で愚痴をこぼす。
今回の任務に参加したメンバーはいずれも戦闘に長けた者ばかりであったが、本格的な冬のウルサス――ほぼリターニアだが、二人が立っているこの場所は、地図上ではウルサスであった――は、さすがに堪えるものがあった。雪こそ降っていないが、ヒュウと甲高い音とともに左から右へ体を叩いている風は、容赦なく彼らの表面を冷やしていた。
「……で、”奴”がいるのは……北西か」
ふいにAceがつぶやき、口にした北西へと駆け出す。ビーンは上官が駆け出したのを見て、緊急事態かと動きをとめて身構えたが、北西に何がある――いや、「居る」のかに思い至り、ああ、と呆れの混じった声を発すると、にやりと笑って、Aceと同じように駆けだした。
Aceとビーンが駆けて行った先には、長い黒髪をもつフェリーンが、仲間たちを伴って立っていた。彼女――ブレイズは、Aceたちの気配にいち早く気付き、表情を明るくして手を振る。
「Ace、ビーン!」
彼女の周辺の地面はところどころ掘り返されたように乱れており、戦闘の激しさを物語っている。右手には彼女の武器であるチェーンソーがまだ握られていた。荒れた地面の中心を陣取っているブレイズは、風で流され頬へかかる髪を頭をふって取り払うと、無事でよかった、と笑顔を浮かべた。
「ロドス側の怪我人はいないみたいだね。リーダー格がこっちにいて抵抗が激しかったから、ちょーっとだけやりすぎたけど、こっちも無事だよ!」
様子を見に来てくれたのだろうと考えたブレイズがAceへ端的に報告する。それを聞いたAceはうんうんと鷹揚に頷くと、両手を前に突き出した。
――まるで焚火に当たるように。
周囲の空気は、ブレイズが使用したアーツの余韻で、ほどよく暖まっている。
「Ace? 何して……って、ちょっと待ってよ! 私をストーブ代わりにしてない?!」
「あー、生き返るぜ」
しみじみとAceが呟き、ブレイズが「ねえ!」と耳をぴんと立たせる。
「今日はみんな、私のそばから離れないな~って思ってたけど、そういうこと? てっきり、まだ敵がいるかもしれないからって警戒してるのかと思ってたんだけど!」
あたりにめぐらせたブレイズの視線をロドスのオペレーターたちが仕事の手を止めずにさりげなく避けていく。否定する者は一人もいなかった。
「いやあブレイズさんのアーツはすごいですね」
Aceの隣で穏やかな表情をしたビーンが呟く。褒められていることは確かだが、果たして喜んでいいのだろうか、と判断に迷ったブレイズは笑っているような、怒っているような、中途半端に眉をあげて目を細めた表情を作ったあと、体中の力を抜いて、はあ、とため息をついた。
「まあ、寒いのは事実だからしょうがないか」
ブレイズの言葉に、周囲がどことなくほっとした空気に変わる。
「よし。それじゃあ任務は完了だ。このままブレイズとともに本艦へ帰還する。早くしないと冷えちまう」
「もう、だから私はストーブじゃないって! もうアーツ使ってないから、この気温じゃ、すぐに寒くなるよ」
「――だそうだ。さっさと帰るぞ」
冷たい風が吹き荒れる寒々とした大地を、彼らはほんの少しのぬくもりと共に進んでいった。

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